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2023.03.24

生き物調査アプリ「バイオーム」でみえる ikumoriプロジェクトの未来

「広葉樹を使った分だけ森にお返しする」ikumoriプロジェクトでは、2022年10月に第2回植樹祭を開催。これにより、第1期分のikumori製品販売実績に見合うナラ、ニレ、セン合計170本の植樹が完了しました。

今回は、参加者と一緒に、生き物コレクションアプリ「バイオーム」を活用した「第1回ikumoriいきもの調査」も行い、ikumoriの森にどんな生き物がいるのか調べてみました。
その結果、昆虫や植物など51の生き物が見つかりました。ikumoriプロジェクトでは、植樹を通じて生物多様性保全に貢献していくことにもチャレンジしていこうと考えており、今回はその第一歩となります。


調査にあたり、ご協力いただいた株式会社バイオームの取締役 多賀 洋輝さんと事業部の谷川和音さんに、事業内容やikumoriプロジェクトの可能性についてお話をおうかがいしました。

生き物調査で見つかった生き物(提供:株式会社バイオーム)

■ビジネスを通じて生物多様性保全をはかる

–そもそもなぜ「バイオーム」というアプリを開発されたのでしょうか。

多賀:もともと大学で生態学を研究していたのですが、その一環で生物多様性のデータ収集をしていました。破壊されていく森を目の当たりにする中で、研究だけで破壊を止めるのは難しく、生物多様性保全をビジネスにしていかないといけないと思いました。

–研究だけでは破壊を止められないと思ったのはなぜですか。

多賀:研究でマレーシアを訪れた際、飛行機からパーム油用のアブラヤシプランテーションが見えました。熱帯雨林がプランテーションに置き換わっていっている様子は大変だなあと思うのですが、そこで働いて生活の糧を得ている方がいる。彼らは家族のために働いていて、その仕事を頭ごなしには否定できないと思いました。収入を維持したまま生物多様性保全になるような仕組みをつくっていかないといけないと思い、ビジネスセクターの役割を強く感じました。

かつて熱帯雨林が広がっていた場所(提供:株式会社バイオーム)

-確かにプランテーションをつくるのも製品化して販売するのも企業と考えるとビジネスモデルの変革は重要ですね。

多賀:どんなビジネスにも根底にあるのは情報です。環境をビジネスにしていくのであれば環境の情報が必要です。特に生物多様性は環境の根幹なので情報が重要になります。そこで、データ収集をして、かつ誰もが利用できるプラットフォームをつくることが私たちにできる第一歩なのではないか、と考え、アプリ「バイオーム」を開発しました。

■市民調査にはパワーがある

–「バイオーム」は「市民参加型」を大切にされています。その理由を教えてください。

多賀:理由は二つあります。
一つは、市民が集めるデータの力です。市民科学にはパワーがあります。専門家の調査は大規模にやってまた何年後かにお金をかけて断続的にやるか、一回で終わることも多いのですが、市民調査は市民が楽しいと思っている限りはずっと続きますし、参加人数も増えていきます。

専門家が集めたデータは粒度も細かくてすばらしいものなのですが、一方で市民科学のデータはリアルタイム性が高くて更新頻度が高いのが特徴です。たとえば外来種の侵入であったり希少種の絶滅などの事象を比較的早く捉えやすいというメリットがあります。

二つ目は、普及啓発目的です。生物多様性を主流化していくために普及啓発が必要です。気候変動は、企業が使命として感じていたり、政府が取り組んでいるので国民はなんとなく理解していますが、生物多様性はあまりメディアにも取り上げられず、認識が追いついていないと感じています。

アプリを使うことで生物多様性を身近に感じてもらう、生物多様性という言葉を聞いたときにすんなり理解できる、そういう土壌を市民の中に育んでいきたいと思っています。そうなってはじめて、企業も動かなければ、行政も動かなければ、となっていくと思います。

参加者の皆様が調査されている様子

–ユーザー数は今どれくらいですか。

多賀:リリース後、3年目でユーザー数(ダウンロード数)は70万件くらいです。季節によって変動はありますが投稿も1日1から2万件あります。

–すごい数ですね。みなさんどんな時に投稿しているんでしょう。

多賀:日々の散歩や子どもと週末に公園に行ったときに投稿しているような感じがします。人によってはガーデニングの花を毎日投稿している人もいます。

–なるほど、そういう方法もあるんですね。

多賀:研究者は持っていないデータなのでこういうデータは意外と重要なんです。

–ユーザーはどんな方が多そうですか。

多賀:一番多い層が30-40代のファミリー層です。お子さんと一緒に利用しているのではないかと思います。次に多いのが、20代の大学生層、同じくらい多いのが高齢者層です。

■企業や自治体の政策調査からイベントまで

–企業の利用もあると聞きましたが、企業の場合、どのような活用事例があるのでしょうか。

多賀:教育やブランディング、都市計画などさまざまな使われ方をしています。昨年の生物多様性第15回締約国会議(COP15)で、30by30(サーティーバイサーティー)*1やTNFD*2などが進展してきたことを受けて、生物多様性に対して、事業がどんな影響を与えているか、また、生物多様性保全に取り組むことでどんなビジネスチャンスがあるか、といった情報について開示義務を見据えてデータを集めたいという企業も徐々にでてきています。

他には、造園業者が植栽する植物を選定するために在来種の分布情報を調査するといった本業への活用もあれば、「バイオーム」を使って生物調査をしながらお客様や従業員に店舗内の緑地を楽しんでもらおう、というイベントに活用される場合もあります。交通インフラ系の企業が、アプリを活用して沿線の駅の生き物調査をしながらスタンプラリーを集めるといったイベントを開催するケースもありました。自治体からもよくお声かけいただき、公園を造成する際の影響評価や市民のコミュニティづくりに役立てていただいています。

バイオームを活用した連携事例(左上:JR東日本・西日本・九州、右上:イオン株式会社、下:環境省)(画像提供:株式会社バイオーム)

–イベントから政策評価まで幅広く活用できるんですね。

多賀:市民調査のデータは専門家に比べるとデータが足りないとか間違っているといったところもありますが、弊社では、何度も間違っているデータや調査地域に明らかにいない生き物を削除するなど「クレンジング」を行った上で分析データを納品するサービスも提供しています。

■はじめて出会う生き物にワクワク

–谷川さんは、「第1回ikumori生き物調査」にご参加いただきましたが、生き物調査をした際の感想をお聞かせください。

谷川:実は北海道に行くのははじめてで、どんな生き物がいるのか楽しみでした。調査をしてみると東北や北海道でしか見られない生き物がいました。たとえば「雪虫(トドノネオオワタムシ)」ははじめてみて感動しましたし、羽が退化したバッタ(フキバッタの仲間)なども見られて嬉しかったです。

北海道で見た生き物たち(右:トドノネオオワタムシ、左:フキバッタの仲間)(提供:株式会社バイオーム)

–調査には、大人だけではなく子どもも参加しましたが、反応はいかがでしたか。

谷川:子どもは新しいものを吸収するのが早いですね。使い方を伝えるとすぐにアプリで生き物を調べて、ポイントをゲットし、レベルがあがったと喜んでいました。
子どもそっちのけで調査をしている親御さんもおられるなど(笑)、思ったより盛り上がりました。参加させてもらって新しい試みを表現できたのかなと思いました。

–ikumoriプロジェクトのどんな点に共感されますか。

谷川:ikumoriプロジェクトは「使った分を使った分だけ森にお返し」という芯になる考えがあっていいなあと思いました。植える樹種も製品に関係ない針葉樹を植えるのではなくて北海道産の広葉樹を使って、北海道の種類を北海道で調達して北海道に植える。単にやってる感じじゃないところがいいなあと思いました。

多賀:生物多様性をすすめる上では材料を使っている企業自身が材料を生み出していくことがとても大事だと思います。気候変動の場合は、お金でCO2排出量をオフセットできますが、生物多様性の場合、生き物はそれぞれの土地に根ざしているので単純にオフセット、売買できないところが決定的な違いです。だからこそ、土地のことをわかっている方と一緒に活動していくことが大事です。ikumoriはまさにそれを体現していると思います。

■調査を続けることの大切さ、面白さ

–今後、ikumoriプロジェクトにどんな期待をされますか。

谷川:季節によって見られる生き物は変わるので、定期的に生き物調査をしてみていただければと思います。陰ができたり木の成長にあわせて環境も変化していきます。実ができれば実に生き物が集まってきたりします。ぜひ継続的に調査をしていただき、経年変化も把握できれば、意味のある調査になると思います。

多賀:調査を続けることによって見えてくる種類の変化も楽しいと思いますし、思いもよらない効果もあると思います。広葉樹林を育てていくことが生物の種数だけではなく、たとえば水源涵養につながったりということもあると思います。
100年くらいの単位でみた時の管理コストにも関心があります。針葉樹の森は管理コストをきっちりしていかないといけませんが、広葉樹の管理コストは循環して低くなったりするのではないか、と思ったり。生き物の数だけではなく、そんないろんな数字も出せると面白いですね。

ikumori第2回植樹地の様子

–北海道森林行政の第一人者でおられる工藤森生先生のインタビュー(リンク)でも調査を継続してほしいという声がありました。「バイオーム」は気軽に調査できるので継続性を確保できるかもしれませんね。

谷川:そうですね。植樹地の皆さんが仕事のお昼休みにちょっと調査に行こうか、という気軽さでもいいかもしれません。

多賀:最近よく、生物多様性を増やすにはどうしたらいいか、と聞かれます。緑化の技術はある、現状の植栽の場所の調査もできる。でも、生物多様性が少ないとわかった場合の方法論が案外ないんです。林業ですと実証に50年ぐらいかかると思います。ぜひ続けていくことで、これだけ生物多様性が高まりました、といった成果を出して欲しいですね。ここがビジネスとして成り立っていたらさらにいいモデルになると思います。

–ikumoriプロジェクトの今後の進め方についてアドバイスをお願いします。

谷川:ぜひ継続していただいて、「あの時に植えた木を使って家具ができました」みたいなところまで到達してくれるとうれしいですね。もし家具ができたら買います(笑)。  

多賀:取り組みが広がってほしいな、と思います。林業は現場を見ないとわからないことも多いのでいろんな企業の研修場所としても活用できるのではないでしょうか。

■木製内装材を通じて生物多様性保全にチャレンジ

–昨年のCOP15では30by30が世界的にも合意するなど生物多様性分野の進展も見られます。木製内装材を通じて、生物多様性保全にどう貢献できると思いますか。

多賀:製品に木を使用しているのは決定的なところではないかと思います。生き物は必ず土地に紐づいているので、生物多様性は結局土地利用の問題なんです。どんなふうに開発したり、放置したりするのかというのが根幹にあります。林業は土地利用を司る最たる産業です。木材をどう育んでどう使うかは生物多様性に対する人間のスタンスの現れと言えるのではないかと思います。ですから、森林認証などもありますが、固有種を植えていくことは生物多様性を保全しながら土地利用をすすめる一つのチャレンジだと思います。

生き物を守る時には二つの考え方があると思います。
一つはゾーニング。ここは使うけれども、ここは手をつけずにいこうというものです。この場合、完全に二極化します。もう一つは共存。日本でいうと里山などが例にあげられます。
人が使うんだけどそこには生態系もあるという状態です。
木材は森から木を切り出してきて人の文化の中で使うという橋渡し的な存在だと思っています。これを持続可能に続けられるかどうかというのは生物多様性と人間の発展を両立できるのかという問いにもかかわってきます。

ikumori製品採用事例
施主:株式会社恒電社様 設計:株式会社ものくり商事様

谷川:生き物を使いすぎない、取り尽くさないことを考えると、頑丈なものをつくるというのも生物多様性保全をはかる上で大事だと思います。企業活動とのバランスはあると思いますが、そのあたりの塩梅を考える中で生物多様性の考えをもう少し組み込めれば消費者意識も変わるのではないでしょうか。

ある程度、値段が高いけれども壊れないし、生物多様性にも寄与しているからこっちを買おうというふうになれば生物多様性の保全も図られていくのではないかと思います。

■生物多様性を社会インフラをめざして

–今後、「バイオーム」を通じて、どう生物多様性保全に貢献していこうとお考えでしょうか。

多賀:これまでの取り組みを継続、拡大しつつ、社会になくてはならないサービスになっていきたいと思っています。それがつまり生物多様性が社会のインフラになっていっているということになると思いますし、それを体現する会社になっていきたいと考えています。

目先のところでいうとTNFDの開始は分岐点だと考えています。人類にとってほぼ最後のチャンスです。30by30、TNFDが社会実装されて、中身があるものになるかどうかは人類の選択だと思います。弊社としてはデータを提供して、エビデンスに基づいた保全や企業活動ができるようにつなげていきたい。地に足のついたデータを提供していって社会にとって身のあるものにしていきたい。これが限時点で私たちにできる最大のことではないかと考えています。

–今後、世界が生物多様性を実装する上での要となる事業になりそうですね。ikumoriプロジェクトも、北海道でチャレンジを続けていきたいと思います。今日はありがとうございました。

*1 2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)という目標に向け、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全しようとする世界目標。2012年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議で合意された。日本も22年に「30by30ロードマップ」を公表した他、環境省の主導のもと、​​30by30に賛同する企業や自治体、団体による「30by30アライアンス」が22年4月に発足​​している。

*2 「自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures」の頭文字をとってTNFD。自然資本に関する企業活動のリスクと機会に関する情報開示の枠組みを構築するために設立された組織。2023年秋には正式な枠組みの公開が予定されている。

(プロフィール)株式会社バイオーム
「生物多様性の保全を社会の当然に」のビジョンのもと、2017年5月に設立された京都大学発のスタートアップ企業。生物のリアルタイムな位置情報を集約したビッグデータ活用し、生物多様性の保全と経済合理性が両立した社会の実現を目指す。
同社が開発・運営を行ういきものコレクションアプリ「Biome」は、市民科学の力を活用し、誰もが楽しくいきもの探しを楽しむことができる無料アプリ。日本国内のほぼ全種(約10万種)の動植物に対応した「名前判定AI」や、図鑑、いきものマップ、SNS、クエストなど様々な機能を備えている。
またtoB/toGに向けては、情報開示にも活用できる本格的な生物調査を支援するツール「BiomeSurvey」や、TNFD対応支援サービス等も展開予定。
https://biome.co.jp/